一般社団法人 日本オートノミー協会 ―「自律性」を手がかりに個人や組織の健康を目指す―

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Q&A よくある質問

グロッサルト=マティチェク博士らの研究結果について

グロッサルト=マティチェク博士らによる研究の「信憑性」についてはかつて議論があったと聞きますが、どうお考えですか。

1970年代後半から1980年代前半にかけて発表された彼らの研究結果が「良すぎるのではないかtoo good to be true?」として議論を呼びました。この議論に決着をつけるために、グロッサルト行動パターンによる疾患リスク予測およびオートノミートレーニングによる疾患リスク抑制効果について、グロッサルト=マティチェク博士の関与を排除した「追跡延長研究」が1982年から1986年にかけて行われました(下図)。まず、1972年に実施されたベースライン調査(対象者はハイデルベルク都市圏住民から抽出)のデータを、1982年に追跡延長研究の調査チームが預かりました。対象者の名簿は、当時のハイデルベルク上級市長(Reinhold Zundel氏)が市庁舎に保管しており、調査チームはこの名簿がグロッサルト=マティチェク博士から入手した名簿と一致することを確認しました。そして4年半後の1986年より研究対象者の生存および死因に関する調査が行われ、ベースラインデータと突合したうえで解析が行われました。

追跡調査

その結果は、1972年から1982年にかけてグロッサルト=マティチェク博士のグループが実施し、解析した結果を完全に支持するものでした [1-4]。すなわち、グロッサルト行動類型(タイプI~IV)と生存および死因との関連はグロッサルト=マティチェク博士による理論を裏付けるものであり(下図左)、がんや心血管病による死亡がオートノミートレーニングによって抑制される効果も、この延長追跡期間にかなりの程度保持されていることが確認されました(下図右)。グロッサルト行動類型やオートノミートレーニングによる疾病予防が博士の仕事の全てではありませんが、理論体系の中核をなすため、「信憑性」についてはその時点で結論が出ているものと考えています。

グロッサルト=マティチェク博士らの研究結果

独立調査チームによる検証結果: ハイデルベルク研究データの追跡延長研究 1982-1986
  左図: グロッサルトの行動類型と生存・死因
  右図: “ハイリスク”住民におけるオートノミートレーニングによる慢性疾患予防
  ※ がん・心血管病以外による死亡は除いている。生存者の健康状態については調査されていないため、
   緑色の棒は”健康”者ではなく”生存”者である。
  ※ 右図で両群のNが不均等なのは、1982年までの死亡数が介入群<対照群であったことによる。

文献

  1. Grossarth-Maticek R: Some Comments on the Yugoslav and Heidelberg Studies. Psychological Inquiry 1991, 2(3):294-296.
  2. Eysenck HJ: Analysis of mortality data in the 1972 prospective Heidelberg study by Grossarth-Maticek, covering the period 1982 to 1986. Psychological Inquiry 1991, 2(3):320-321.
  3. Vetter H: Some genuine predictions of Grossarth-Maticek’s established. Psychological Inquiry 1991, 2(3):322-323.
  4. Eysenck HJ: Prediction of cancer and coronary heart disease mortality by means of a personality inventory: results of a 15-year follow-up study. Psychol Rep 72: 499-516,1993.

最近になって、キングス・カレッジ・ロンドンより委託を受けた委員会が、アイゼンク博士がグロッサルト=マティチェク博士と共著で発表した一連の論文につき、データセットや研究結果の妥当性への懸念から撤回されるべきとの声明を出しています。この声明につき、どうお考えですか。

この委員会の声明の中で論じられていることは、1980年代に活発に行われた議論が繰り返されたものです(当時の議論の詳細は、Psychological Inquiry誌の第2巻3号全てを使ってまとめられています)。委員会によって表明された懸念は、端的に言って上記の「信憑性」に端を発するものですが、声明文の中 [1]、あるいは引用されている主論文のいずれにおいても [2]、客観的事実として重視されるべき「追跡延長研究」(上記)への言及は見当たりません。また、多くの独立グループがグロッサルト理論の検証研究を報告し、肯定的な結果を得た研究報告も少なくない中で、声明文は唯一、Amelangらがドイツで行い否定的な結果を得た横断研究のみを直接引用しています[3]。しかし、この研究で用いられた質問紙は、グロッサルト作成の原版(ドイツ語)を第三者が英語に意訳したものを、さらにドイツ語へと再翻訳し、彼ら独自の編集を経て作成されたものでした。この質問紙によって測定されるタイプI行動とタイプII行動の相関係数は0.8以上と非常に高く(他の研究では0.4程度)、この測定の妥当性に疑問を残すものでした。これらのことからも、委員会での検討が十分なものであったのかについて、疑問に思うところです。

文献

  1. King’s College London enquiry into publications authored by Professor Hans Eysenck with Professor Ronald Grossarth- Maticek.
  2. Pelosi AJ: Personality and fatal diseases: Revisiting a scientific scandal. J Health Psychol 24: 421-439, 2019.
  3. Amelang M: Using personality variables to predict cancer and heart disease. European Journal of Personality 11: 319-342, 1997.

グロッサルト=マティチェク氏の理論や方法の再現性、他の集団での妥当性や一般化可能性についてどうお考えですか。

グロッサルト=マティチェク氏らの研究では、心理社会的因子の評価は単純なアンケート調査ではなく、よく訓練された調査員が相当な時間をかけて行った個別面接の中で、被験者からの信頼と質問への正確な理解とが得られるような特別な手続きの下になされました。そのような配慮を欠く場合、心理社会的因子と疾病/健康との関連の検出が著しく損なわれることも示されています [1,2]。グロッサルト理論の検証を試みた観察研究は、欧州や日本の独立グループによって発表されていますが、グロッサルト=マティチェク氏らと同等の手続きを用いたものはないようです。それでもなお、相当数の研究がグロッサルト理論を支持する結果を得ています(これまでの研究を参照)。一方、介入研究(オートノミートレーニングの効果)の追試については、私たちの知る限り未だ報告がありません。グロッサルト=マティチェク氏らによる知見の重大さに鑑みると、「良すぎる too good to be true」として単純に排除するのではなく、必要に応じて彼らの協力を請い、できる限り彼らと同等の手続きを用いた追試を行い、その結果を得て議論を進めることが適切と考えます。

文献

  1. Grossarth-Maticek R, Eysenck HJ, Barrett P: Prediction of cancer and coronary heart disease as a function of method of questionnaire administration. Psychol Rep 73: 943-959, 1993.
  2. Grossarth-Maticek R, Eysenck HJ, Boyle GJ: Method of test administration as a factor in test validity: the use of a personality questionnaire in the prediction of cancer and coronary heart disease. Behav Res Ther 33: 705-710, 1995.

オートノミートレーニングについて

精神分析療法や認知行動療法など、他の治療法とオートノミートレーニングとの異同についてどうお考えですか。

興味深いテーマですが、現時点で明確な回答は持っていません。長年グロッサルト=マティチェク氏と研究を供にした故・アイゼンク氏は行動療法の創始者の一人である一方、若き日のグロッサルト=マティチェク氏を強く支持した故・バスティアーンス氏は精神分析療法の大家でした。また、認知行動療法の第一人者である熊野宏昭氏は、「行動療法の最前線で発展しつつある『新世代の認知行動療法』(ACTやDBT)と相通じるものがある」と指摘し、その共通点について論じています(オートノミートレーニング(星和書店刊)の解説を参照)。グロッサルト=マティチェク氏自身は、「様々な専門性を持った各人が、それぞれの知識や経験を踏まえて本療法を取り入れることが可能である」と語っています。

キャリアのうえで本療法を習得するメリットがありますか。

本療法の適応範囲は幅広く、ドイツでは医療や健康領域のみならず、プロスポーツ選手やコーチ、教育者、企業の開発部門エンジニア、牧師、経営コンサルタント、企業経営者など、様々な人々が学び、それぞれの現場で応用されているようです。日本でも、グロッサルト=マティチェク氏による認定を受けたトレーナーが医療や産業保健領域での応用を始めています。

オートノミートレーナー育成プログラムについて

2017年から新たな制度に移行しましたが、従来の制度で受けた認定からの移行措置はありますか?

はい。旧制度の下で経験されたこと(研修会への参加、勉強会でのロールプレイ経験や事例報告、Webアンケートシステムを用いた事例経験など)は、すべてそのまま新制度において活かすことができます。たとえば、旧制度でオートノミートレーナーの認定を受けた方のうち、勉強会でのロールプレイを経験済みの方はそのまま新制度での「オートノミートレーナーG級」へと移行できます。あるいは、新制度で求められる要項のうち、これまでの経験で不足している要項を追加して修めることにより、「オートノミートレーナーG級」や「オートノミートレーナーM級」の認定を受けることができます。

研修会を受講する前に、グロッサルト=マティチェク氏による「解説書」を読んでおいた方がよいでしょうか。

はい。ただし必ずしも内容を網羅的に理解する必要はなく、関心のある箇所を中心に概要を把握しておけば十分です。同書の「訳者まえがき」にある「読み方ガイド」を参考にしてください。

育成プログラムを受講するかどうか判断するために、研修会や勉強会にオブザーバーとして参加することは可能でしょうか。

はい。研修会では原則としてビジターを受け入れておりませんが、勉強会にはビジターとしてご参加いただくことが可能です。ご希望の回を指定して、までお問合せください。